彼女のローカルルール(完結)

ライトなラノベコンテスト用です。
中二的な能力物です。
色々な意味でライトです。

(第一回)ライトなラノベコンテスト二次落ちの作品です。
こんなんじゃあ落ちるよという参考にして頂ければ幸いです。

ライトなラノベコンテスト

彼女のローカルルール 第一条 夢穂さん

 はいバリア、と言えば相手の攻撃を全て弾くことができるのは小学生までで、高校生になる僕にはもうそんな荒業使えない。
 ×マークだらけの答案用紙を目の前にして僕は頭を抱えていた。

「おやおや青君。頭を抱えてとても楽しそうじゃない」

 脳髄に響くような波のある声音が僕を呼んだ。
 およそ学校生活には相応しくないようなアクセサリーの散りばめられた制服。
 軽くウェーブのかかったボリュームのあるセミロング。
 そこから覗く小さな黒いツノ。
 彼女は僕を見下すようにしてヘラヘラと笑っていた。

「青君はテストの結果、どうだったのかな?」
 
 言いながら夢穂さんは僕の答案用紙を舐めるように見回す。
 恥ずかしかったが、何故だか答案用紙を隠そうという気になれなかった。

「くふふふふ。とても悪い点数だね。語尾に(笑)を付けるだけじゃあとても足りないくらいには悪い点数だよね。(笑)っていうか、(悪)みたいな?」

 夢穂さんは口元を押さえて心底馬鹿にするような笑みを浮かべる。
 これなんのプレイだろう。
 
「……なんだよ夢穂さん。僕を馬鹿にしに来たのか?」
「仲間を見つけに来たのよ」

 夢穂さんはまるで自慢するように五つの答案用紙を僕に提示した。

 24点! 

 16点! 

 33点! 

 19点! 

 5点!

 すげえ!
 僕より低いぞ!

「これじゃあ夢穂さんも追試か。なるほど、仲間だね」
「えぇ? 私は追試受けないよ?」
「いやいや、こんな点数じゃあ追試は免れないって」

 僕が言うと、夢穂さんは不敵に微笑んだ。
 そして、蛍光灯の光を小さなツノで反射させ、吊り上げられた唇の間から鋭い牙をのぞかせて、夢穂さんは大胆不敵に、威風堂々と、傲慢不遜に大きな胸を張って口走る。

「私は追試をしない。それが私のローカルルールだから」


彼女のローカルルール 第二条 特殊能力行使禁止法

 追試者リストに夢穂さんの名前は無かった。

 馬鹿な。

 彼女のふざけたローカルルールが適用されたとでも言うのか?

 ……いや、お遊びのローカルルールならともかく、そんなのは小学生でも通用しないだろう。


「じゃ、追試開始」


 先生のそんな言葉で追試メンバーは一斉にプリントへと目を落とした。

 歴史のテスト。

 今回の範囲は、超現代の日本……世界史だ。

 つまり、『こっちの世界』と『あっちの世界』の戦争が終息してからの歴史である。

 追試の問題は前回と同じ……つまり、暗記してしまえばこちらのもの。

 こんな穴埋め問題、超簡単。


「…………」


 あっれぇ……うぅん、やべぇ、全然覚えてねえ。

 なんたら条約とかうんたら整備法とか、色々あったんだけどなぁ……。

 あ、この問題は覚えてるぞ。


問題、超能力を有する者がみだりにその力を使用するのを禁ずる法律は何か。

答え、特殊能力行使禁止法。


 これだ。

 プロボクサーが喧嘩したらダメだよ、って感じの法律だった気がする。


 戦争には、特殊能力が必要だった。

 なにしろ「あっちの世界」の住人には銃もミサイルも通用しなかったからだ。

 だからそれに対抗するべく、「こちらの世界」の人間も特殊能力を身に付けた。

 とはいえ、そんなものは戦争が終わってしまえば必要ない……むしろ、平和維持のためには邪魔である。

 だから、かつての剣術や武術のように、今日の特殊能力はスポーツの一分野として生き残っているのみである。

 

 だが、剣術や武術とは決定的に違うところが、特殊能力にはある。

 前者は技術……つまり修行や練習を積まなければものにならないが、後者はそもそも自分の能力として備わっているということが多い。

 手で掴むように、足で走るように、特殊能力者は特殊能力を使えるのだ。


 遺伝とか、何かのきっかけで、誰でも特殊能力者になってしまう可能性があるのだ。

 

 ……それか?


 夢穂さんは『何か』の能力を使った?

 

 だから、彼女は追試を受けずに済んだ?


 ……追試を受けずに済む能力って……なんだろう。


彼女のローカルルール 第三条 能力規制腕輪制度

 夢穂さんは誰にでも気さくに話しかける。
 小さなツノと真っ黒なしっぽを持っているにも関わらず「夢穂さんマジ天使」とか言われるくらいには人気がある。
 だからべつに、僕と夢穂さんは仲良しというわけではなくて、僕は夢穂さんのことについてあまり知らないし、夢穂さんも僕のことは同じく知らないだろう。
 しかしそんな夢穂さんは、僕の追試が終わるのを廊下で待っていた。

「やっほー、青君。追試は楽しかったかな?」
「楽しい追試なんて存在しねえよ」
「くふふふふふ。まぁ、そうだよねぇ。テストなんて面白いもんじゃあない」

 楽しそうに、気軽そうに、夢穂さんは笑みを浮かべる。
  
「というか夢穂さん、本当に追試受けなかったんだな」

 僕が言うと、夢穂さんは怪しく唇を吊り上げてボリュームのある髪を揺らした。
 
「『受けなかった』んじゃないよ。『受けなくても良かった』んだ」
 
 そんな言葉を聞いて、僕は思わず聞いてしまう。 

「……もしかして、夢穂さんって、特殊能力、使える?」

 特殊能力が使える者と使えない者の差は、外見ではほぼ判断できない。
 当然、肉体そのものに変化のある能力なら別だが、大抵の場合は対象者が能力を持っているかどうかは分からないのだ。
 そして自らの能力を提示する義務は存在しない。

「やだなぁ青君」

 言いつつ、夢穂さんは左腕を僕に向けてかざした。

「知ってるでしょ? 能力者には腕輪が付けられる。そういうルール。私の腕にそれが見える?」

 唯一。
 外見で能力を持つ者かどうかを見分ける唯一の手段があるとすれば、それは左腕に巻き付けられた腕輪である。
 
 これはまぁ、剣に例えるならば鞘の役目を果たすものだ。
 特殊な腕輪を対象者に装着することで、その能力をほぼ0にまで収縮させる。
 能力者はこれを付けることを義務付けられているし、それを破れば罰せられる。
 一定時間その腕輪が外されると、ただちに能力者を駆除するための部隊が放たれる。
 
 そういう法律。
 そういうルールなのだ。
 
「でもさぁ青君、そんなルール、変だと思わない?」

 夢穂さんは廊下の壁にもたれて話す。

「能力者にとって、能力は手足みたいなもの。それを封じるなんて、手錠かけて足枷をはめるみたいなものでしょ?」
「……まぁ、そうかもしれないね」
「そんなルールは、絶対におかしい」

 唐突に、夢穂さんは僕の左手を掴んだ。
 小さくて柔らかい、女の子の感触が腕から脳へと登って伝わる。

「ねぇ、青君」

 夢穂さんは妖艶に微笑んで、僕の何も無い左手を指でなぞる。

「知ってるんだよ?」

 吸い込まれるような深い赤色の瞳で、僕を見つめる。

「青君が能力者だってことを」

 夢穂さんは、まるで腕輪をかけるように、僕の手首を優しく覆った。

彼女のローカルルール 第四条 三原則

「青君は一体どんな能力を持っているのかな?」

 丸い瞳に映る縦に細い瞳孔が、僕の身体を射抜くように貫いた。
 その視線で危うく口が滑りそうになったが、喉元まで上がってきたところでなんとか耐える。
 僕は無能力者。
 少なくとも、家の外ではそういう『設定』である。
 そういう、『ルール』である。 
 だからここは平然を装って、無自覚を演じて、ごくごく自然な感じで僕は聞き返す。

「なななな、なんのことだよ夢穂さん。いやいや、何言ってるのか全然分からないんだけどな。ぼ、僕が能力者だって? 能力者ってなんだよまったく!」
「青君、それは動揺しすぎ」

 くふふふ、と夢穂さんは小さなキバを覗かせた。
 
「青君は素直だねぇ。まぁまぁ、自分の能力をペラペラ喋っちゃうような奴より全然マシだよ。青君はわかってますなぁ。とりあえず合格って感じ」

 そして、夢穂さんは握ったままの僕の腕を軽く引っ張る。
 誘導するように、先導するように、僕の身体をグイッと引いて夢穂さんは歩きだす。
 
「着いてきて、青君」
「え、えぇ? どこに?」
「さぁパーティーの始まりだ! 青君一名様ご招待~!」
「なんでそんなにテンション高いの!? 説明して!?」

 夢穂さんは華奢な女の子である。
 だからその腕は簡単に振り解けるはずだ。
 しかし僕には、何故か夢穂さんの腕を払うことはできなかった。
 不思議と、僕の腕には力が入らなかったのである。

「ねぇ、青君はこの国のルールをどう思う?」
 
 僕を連行しながら夢穂さんは聞いてきた。

「どうって言われても……」
「特殊能力の三原則、青君も知ってるでしょ?」
「そりゃあ、さすがの僕でもそれくらいは知ってるけど」

 特殊能力三原則。
 特殊能力を「覚えず」「使わず」「使わせず」。
 この三つからなる原則である。
 あっちの世界との大戦争に、実質的には敗北したこの国、この世界に定められたルールである。
 それを元にして作られたのが特殊能力行使禁止法であり、腕輪による能力の抑制だ。
 
「私はハーフだけれど、この国が優秀だって知ってるよ。国民が、歴史が、技術が、とても素晴らしくて美しくて誇らしいって、私は知ってる」

 ウネウネとしっぽを動かし、小さなツノに光を反射させて、夢穂さんは歩きつづける。

「だから、だからこそ、特殊能力を取り上げた。持たせておくのは危険すぎるから」

 ピタリ、と夢穂さんはそこで、足を止めた。
 目の前には、一つの教室。
 そして夢穂さんは僕の腕から手を離す。

「私はそれが許せない。自分の都合で規制をしたあっちの世界も許せないけれど、それ以上に、牙を抜かれて腑抜けてしまったこの国が、もっと許せない。だから、私は決めたの。この国を取り戻してやるって」
 
 夢穂さんは不敵に、不可解に、不穏に、不気味に頬をつり上げて、まるで誘い込むように両手を広げて口を開く。

「ようこそ、私の治外法権自治特区へ」

彼女のローカルルール 第五条 組織犯罪

 夢穂さんは引き戸を壊さんばかりの勢いで開け放つ。
 そして花束を投げ入れるように両手を室内に向けて広げる。

「さぁ! 私に付き従うイカレたメンバーを紹介するぜ!」

 なんかヘビメタっぽくそう言った夢穂さんだったが、その扉の向こうには女性……おそらく上級生がただ一人、静かに本を読んでいるだけだった。
 少ねぇ。

「あれ!? ちょっと時雨さん! 他のメンバーは!?」

 両手を広げたままの姿勢で夢穂さんは吃驚仰天といった様相で口を開けた。
 テンションの高い夢穂さんとは対照的に、外見からしておっとりとしたその女性。
 サラサラとした長い髪の毛。
 制服の下から主張しすぎの胸元。
 そして、本を持つその左手には、腕輪が付けられていた。
 それはつまり、彼女が能力者であることを意味する。
 彼女……時雨さんは、本からそのタレ目を離し、ゆっくりとした動作で僕と夢穂さんに柔らかな笑顔を向けた。

「えぇっとぉ、なんか、飽きたから帰るーって言って、みんな帰っちゃった」
「オーマイゴット!!」
 
 夢穂さんはツノの生えた頭を抱え絶叫した。
 なんか夢穂さんがその台詞を吐くのは面白かった。

「あーもう、私に足りないのは統率力だったのかしら。私の探し物は統率力ね」

 とか言って、夢穂さんは時雨さんの隣に腰かけた。

「じゃあメンバーを紹介しまーす」

 先ほどよりも一段階くらい低いトーンで夢穂さんは話す。

「二年生の時雨さん。たぶんこの学園で一番ずるい能力持ってまーす」
「ちょっとぉ、そんな言い方酷いじゃないのぉ」
「このオッパイもずるいと思いまーす」

 ふてくされたように夢穂さんは言って、時雨さんの胸を揉み始めた。
 めっちゃ揉んでる。

「揉むのはいいけどぉ、本読むのに邪魔なんだけどなぁ」
「読むと揉むって似てるよね」

 僕の前で乳を揉みしだく女子と揉みしだかれる女子。
 ……なんで僕、ここに居るんだろう。
 
「それでぇ、こっちの男の子は、誰なの?」
「ん、あぁ、そうそう、忘れてた」

 忘れられていた。

「青君。私たちの計画の全てを握る男子生徒だ!」

 すげぇ、僕の知らないところで何かが起こっているぞ。

「えぇと、ちょっと待ってくれ夢穂さん。僕の存在をすっ飛ばして話しを進めないでくれるかな」
「おやおや、何か分からないことが今までにあったかな?」
 
 乳を揉みながら、しらばっくれるように夢穂さんは不敵に微笑んだ。
 というかその手を離せ。

「とりあえず、ここは何の集まりなんだ? メンバーとか、計画とか言ってたけど……」
「世界征服」

 夢穂さんは言う。
 乳から手を離し、口を歪め、瞳を狭め、両手を広げて、夢穂さんは不気味に口を開ける。

「私の計画、私が目指すのは世界征服だよ。そしてここはその拠点。メンバーとは世界征服をするために私が学園から選び抜いた精鋭たち。そして青君が、最後のメンバー。私の計画を完了するための、最後の鍵」

 夢穂さんのその言葉は、まるで冗談には聞こえなかった。
 何言ってんだこいつ、というツッコミも、とてもじゃないができなかった。
 単純な話、僕はこの時、彼女の、夢穂さんの迫力に負けてしまっていたのだ。
 あまりの自信と、あまりの威圧感に、完膚無きほどに気圧されてしまっていたのだ。
 だから、だからせめてもの反撃として、僕は質問する。

「……そんなでかいことをやらかすなら、メンバーが帰っちゃったのは痛いんじゃないか?」

 時雨さんが学園一ずるい能力を持っていたとしても、夢穂さんと時雨さん……例えそこに僕を加えたところで三人だ。
 それだけの人数で世界征服なんて、できるわけがないだろう、と。
 僕は純粋に、単純に、当然の疑問を、夢穂さんに投げかけた。
 
 しかし夢穂さんは笑う。
 鋭いキバを覗かせて、勝ち誇ったかのように口角をあげる。

「大丈夫、実はもうほとんど終わってるから」

 と、夢穂さんは立ち上げる。
 僕にゆっくりと詰め寄って、その尖った爪の先を、僕の胸にトン、と突き立てる。

「言ったでしょ? 青君が最後の鍵って。後は、青君しだい」

 マジ天使な夢穂さんは、みんなを幸せにするその笑顔で、僕を見つめる。

「世界を決めるのは、青君だ」

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