それから数週間後の放課後。
 廊下でバッタリと時雨先輩に遭遇した。

「あらあらぁ、青君じゃないのぉ。これから下校かしらぁ?」
「いえ、これから追試なんです」

 正確に言うと、追試の追試である。
 前回の追試でも、僕は合格点を取れていなかったというわけだ。
 
「ふぅん? それにしては、なんだか青君は楽しそうじゃなぁい?」
「いや、そんなわけないでしょう」

 いやまぁ、今回はしっかりと勉強してきたし、合格点を取る自信はあるが……。
 
「……時雨先輩は、世界を変えたかったですか?」

 僕は脈絡なくそんなことを聞いた。
 夢穂さんに期待して、世界が変わるのを期待していた時雨先輩。

「べつにぃ?」

 しかし先輩はそんな風に、特に気にする様子も無く答えた。

「私が見たいのは夢穂ちゃんの世界だからねぇ。どういう風に転ぼうとも、それが夢穂ちゃんの世界なら、私は一向に構わないし、それがどんな世界でも見てみたい。私も青君以上に、夢穂ちゃんが好きだからねぇ」

 続けて時雨先輩は言う。

「だって私はレズだから」

 時雨先輩はそんな言葉を残して去っていった。
 どうしようもない情報を提供してくれたなぁ……。
 いや、これは恋のライバルってことなのか?
 そんなことを思いつつ、僕は追試が行われる教室へと辿り着く。
 再追試の生徒は、僕ともう一人。
 扉を開けると、すでにその生徒は席についていた。
 およそ学校生活には相応しくないようなアクセサリーの散りばめられた制服。
 軽くウェーブのかかったボリュームのあるセミロング。
 そこから覗く小さなツノ。
 ウネウネと動く真っ黒なシッポ。

「よぉし青君、それじゃあ頑張って60点以上目指そう!」

 そんな感じで、僕と夢穂さんは一緒に追試を受けるのだった。



 了。