夢穂さんの世界。
 その一部を僕は見た。
 夢穂さん。
 世界を変えようとする夢穂さん。
 その世界を知ってしまった。
 僕の中に生まれた感情は、ふつふつと、心臓の奥で、温度をあげて、身体を熱くさせて、気分を高ぶらせる。
 だから僕は主張する。

「夢穂さん、僕は皆が自由に、平等に、分け隔てなく、誰もがオッパイを揉める世界を求めるぜ!」
「はぁ!? いきなり何言ってんの!? 気持ち悪いわね!」

 あうう。
 心がバッキバキに折られそうになったが、僕はギリギリで持ちこたえる。
 
「能力者の権利……特殊能力の規制に夢穂さんは反対だろ? それはつまり、能力者とそうでない者を平等に扱えってことだよな」
「……まぁ、言ってみればそうかしらね」
「ってことは、僕の主張と同じだ。僕はオッパイを誰でも平等に揉めるような世界を望んでるんだからな」
「それは違うわよ。全然違うわよ青君。そんな滅茶苦茶な論法で私を言いくるめようなんていい気になるのもそこまでよ。だって私は、平等に、能力者の権利を守れって言ってるんだからね。オッパイを誰にでも揉ませろ? ふざけないでよ青君。それはオッパイを揉まれる側の権利を完璧に無視してるじゃあないの」
「それはつまり、能力が怖い人たちの意見を無視してるってことだよな」
「……っ、もう! そんなの一緒にしないでよ! 能力は手足みたいなものなのよ!? それを規制するなんておかしいじゃないの! 手足を縛るようなものでしょ!?」
「一緒だよ。オッパイを揉むなって言うのは、男の煩悩を縛るようなもんだからな。何と言っても、男の煩悩は手足のようなもんだからね。それにさぁ、縛る縛るって、そりゃあご褒美かよ。能力者を自由にさせろ? ルールは縛るもんじゃあないのかよ」
「違うわよ! ルールは……守るもの。みんなを守るもの。私が能力者を守る。お父さんができなかったことを、やってみせる。そしてお爺ちゃんを殺したルールを変える。世界を変える!」
「それならオッパイを揉みたい側も守ってくれよ。それが本当の平等だろう」
「だから違うの! ちーがーうーの! そんなの暴論じゃないの!」
「なら夢穂さんは、どうしたらオッパイを揉ませてくれるんだよ!」
「は……はぁ!? あ、青君はどうしてそんなにオッパイを揉みたがるのよ!」
「そりゃあ夢穂さんに惚れちまったからに決まってんだろ!」

 ピシリ、と夢穂さんの表情が固まった。
 そして戸惑うように少しだけ後ずさりした。

「な……な……な、にを……」
「僕はもうどうしようもなく夢穂さんのファンになっちゃってんだよ。夢穂さんのその小さなツノも、小さなシッポも、世界を変えようとする性格も、とんでもない能力も、マジ天使な笑顔も、怒った表情も、戸惑った表情も、全部が全部、僕は気に入っちゃったんだよ。だから僕は夢穂さんのオッパイが揉みたい! ルールなんて全部無視して夢穂さんのオッパイが揉みたいんだ! 大好きな夢穂さんのオッパイが揉みたいんだ! 恋にルールは要らねえ!」
「……恋は下心って言うけどね」

 と、夢穂さんは呆れたように溜息を吐いた。
 
「さっきから青君、オッパイしか言ってないじゃない。そんな変態さんだとは思わなかったわよ。……でも」

 世界は戻る。
 ぐらついていた世界は、いつものように、崩れかけていたルールは平静を取り戻す。

「変態さんが好きな人のオッパイを求めるのは、仕方ないかもしれないわね。だから今回は言いくるめられてあげる。不問にしてあげる。不起訴処分にしてあげる」

 夢穂さんは僕の胸にトンと指先を置いて顔を近づける。

「青君の世界を認めてあげる。それが青君の求める世界なのね?」

 しかし僕は、もちろん頭を縦には振らない。
 世界とは単純ではないから。
 矛盾と矛盾と矛盾でできていて、ルールなんかでは縛りようがないからだ。
 だから僕は言う。

「まずは夢穂さんの世界を、もっと知ってから決めるよ」

 だって僕は、まだまだ夢穂さんのことを知らないから。
 もっと夢穂さんのことを知りたいから。
 能力を使ったら妹に気持ち悪がられるので、だから僕はゆっくりと、夢穂さんのことを、夢穂さんの世界を、少しずつ理解していきたいと、そう思うのだった。