チャイムと同時に席に着く生徒達。
 起立、礼をして始まる授業。
 いつもの光景。
 何の疑問も無く行われる儀式。
 そういうルール。
 否。
 教育を受けるのは、僕に課せられたルールではない。
 つまり僕は授業なんて受ける必要はないのだ。
 そんなルール無いのだから、それを守る必要は無いだろう。
 そういうわけで、僕は気分が悪いとかテキトウなことを言って授業を抜け出した。
 
「……とか、中二病丸出しだなぁ」

 実際のところはただ単純に、授業を受けるという気分になれなかっただけである。
 こういう時は屋上で空を見上げてボケっとするのが良いのだろうが、屋上への階段がどこにあるのか分からなかったので、中庭の人目に付きにくいベンチに座りながらボケっとすることにした。
 何とはなしに、空に向けて右手を広げる。
 僕は手を動かせる。
 手を動かすのは簡単だ。
 昔の僕はこれと同じくらい能力が使えていた。
 僕は耳を動かせない。
 耳を動かすのは難しい。
 今の僕はこれと同じくらい能力が使えない。
 
「うぅん、能力が使えれば、夢穂さんの本心も丸見えなんだけどなぁ」

 僕の『ずるい』能力が使えれば……。
 
「ずるい……か」

 今の僕では法律……特殊能力行使禁止法が制定された本当の理由は分からない。
 とはいえ、なんとなく予想できる答えが一つある。
 それが『ずるい』という感情だ。
 嫉妬、に近いのだろうか。
 持たざる者が持つ者に対して沸き上がる感情。
 本来の上下関係が逆転して、下が下に引きずり降ろそうとする現象は、往々にしてよくある悲劇である。
 出る杭は打たれる。
 足を引っ張り合う。
 ふぅむ、この国では昔からよくある風習らしかった。
 
「青君、完全にサボってるじゃん。ダメなんだぞー」

 ヌッと現れたのは夢穂さんだった。
 忠告する言葉とは裏腹に、その声音はとても楽しそうに伺えた。

「……ここに居るってことは夢穂さんもサボりじゃん」
「私はいいの。そういうルールだから」
「滅茶苦茶だなぁ」

 言うと、夢穂さんは笑いながら僕の隣に腰をかけた。
 
「ねぇ青君、まだ日にちはあるけどさ、ちゃんと考えてる? 世界を変えたいか、変えたくないか」

 そんな問いに、僕は数秒だけ沈黙した後、

「まだ考えてないよ」

 と返答した。
 僕は本心を隠す。
 夢穂さんの本心は何だ?
 僕の壊れてしまった能力は機能しない。
 だけれど、知りたい。
 夢穂さんの本心。
 裏側。
 思惑。
 本音。
 やはりそこが重要だ。
 僕に判断を委ね、まるで世界の選択は僕の責任であるかのように思わせて、惑わせて、すり替えているが、この問題は夢穂さん自身の問題だ。
 ここを勘違いしてはいけない。
 ここを取り違えると後悔するはずだ。
 夢穂さんの本心。
 しかしどうやってそれを知ればいい?
 夢穂さんのガードを、僕は能力無しでどう破ればいい?
 僕は耳を動かせない。
 だけれど手は動かせる。
 ふむ。
 なるほど。

「夢穂さんくらえ!」

 僕は夢穂さんのオッパイを鷲掴みにした。