彼女のローカルルール(完結)

ライトなラノベコンテスト用です。
中二的な能力物です。
色々な意味でライトです。

(第一回)ライトなラノベコンテスト二次落ちの作品です。
こんなんじゃあ落ちるよという参考にして頂ければ幸いです。

彼女のローカルルール 第十七条 無期懲役

 恋人の……オッパイなら……揉んでも大丈夫……だと?

「お前、実は天才なんじゃねえか?」
「うん、お兄ちゃんが馬鹿なだけ」
「だがな、妹よ。オッパイを揉んだ女子……夢穂さんを恋人にするってのは、ちょっとばかり話が飛びすぎじゃあないか? そりゃあ、確かに夢穂さんに興味はあるんだけどさ」

 夢穂さん。
 夢穂さんの世界に、僕は興味がある。
 興味を抱いてしまった。
 夢穂さんという、世界に、ルールに、興味が沸いてしまったのだ。

「それ、好きってことじゃないの?」

 はぁ?
 と、僕の頭は真っ白になった。
 あ、あれ、そういうことなのか?
 
「年中冬眠生活のお兄ちゃんにもようやく春が来たって感じ? んふふふふ、これはとても喜ばしいことだね。応援はしないけどさ」
「しねえのかよ」
「安心してよ。気にいらなかったら全部ぶっ壊してあげるからさ」

 そんな言葉を残し、妹の声はそれ以降聞こえなくなった。
 あの気紛れはどこかへ行ってしまったらしい。
 と、その時。
 ゾゾゾゾゾッ、と脊髄を不気味な流動が駆け抜けた。

「ようやく見つけたよ青君~」

 耳元で囁かれる、夢穂さんの声音。
 鼓膜を揺らす、小さな吐息。
 僕は思わず身体を仰け反らせ、彼女から距離を取る。
 呑気に妹と会話なんてしている場合ではなかったのだ。
 もっと早く気付くべきだった。
 妹と話をしていた、ということはつまり、すでに時雨先輩が作った時間はとっくに終わっていた、ということだ。
 ……と、夢穂さんの隣に時雨先輩が立っているのに気がついた。

「青君ごめんねぇ。夢穂ちゃん、やっぱり説得できなかったわぁ」

 申し訳ない気持ちなんてさらさら持ち合わせていないような笑顔で時雨先輩は手を振って言う。
 あの人はどういう状況でもそれを楽しめる性質らしかった。
 どう転んでも、どう世界が変わっても、時雨先輩は楽しみ続けるのだろう。

「拘束する前だったから、逃走の罪には問わないであげる。もちろん、時雨さんも同じ。でもやっぱり、セクシャルハラスメントは許せないわよ。青君を罰します」
「罰するって……僕をどうするつもりだよ、夢穂さん」
「それはもちろん懲役刑! 私の治外法権自治特区で! 一生! 私の奴隷として生きてもらいます!」
「な、なんだそのご褒美……いや、ご褒美……いや、ご褒美は!」
「言い直せてないよ青君」

 生ごみを見るような目で見られた。
 僕としたことが、またデリカシーのない発言をしてしまったらしい。
 
「……でもそれじゃあ、僕に与えてくれた世界を変える権利ってのは、どうなるんだ?」
「残念だけど、はく奪よ。もう、本当に残念だよ青君。青君なら分かってくれると思ったのに。青君になら世界の選択権を与えても良いと思ったのに。でも、仕方がないよね。ルールなんだから」

 僕の妹なら、そんなルールは壊してしまうのだろう。
 『瓦礫の積み木(クラッキングクラッカー)』が使えれば……。
 ……否。
 僕には、そんなもの無くても良いはずだ。
 僕にだって、能力はあったのだから。
 妹に壊されてしまった能力。
 人の心を覗ける、僕の能力。
 その欠片。

「夢穂さん」

 僕は夢穂さんを見つめる。
 軽くウェーブのかかったボリュームのあるセミロング。
 そこから覗く小さな黒いツノ。
 うねうねと動く黒いシッポ。

「僕はもっと夢穂さんのことを知りたい」

 僕の中で、小さな欠片がカチリと反応した。
『積み木の設計(ハッキングドラッガー)』。

彼女のローカルルール 第十六条 道徳観

 逃げる。
 僕は逃げる。
 走って逃げる。
 しかしどこへ向かえばいい?
 そしていつまで逃げればいい?
 時雨先輩の能力がどれだけ効果があるのかも分からない。
 僕はいつまで夢穂さんから逃げ続ければ良いのだ?
 うぅむ。
 女の子のオッパイを揉んだだけでこんなことになるとは。
 こんなのはおかしい。
 オッパイを揉んだだけで裁かれる法律なんておかしい!

「いや、それはお兄ちゃんの方がおかしいよ」

 どこからともなく聞こえたのは妹の声である。
 辺りを見回したが妹の姿は捕えられなかった。
 あいつは一体どこから話しかけているんだろう。

「おいおい、僕がおかしいってどういうことだよ。というか、さりげなく僕の心を読むんじゃねえよ。お前の能力はそういうのじゃあないだろ」
「能力なんて使わなくっても、お兄ちゃんのことくらいすぐ分かるわよ。私の心は壊しちゃったけれど、お兄ちゃんとの関係は壊してないからね。お兄ちゃんがオッパイを揉むのは普通であるっていう顔してるのはすぐに分かるの」
「僕、どんな顔してたんだよ」

 鏡が欲しかった。

「で、どうしてお兄ちゃんはそんな破廉恥極まりない妄想しながら走ってたわけ?」
「いやぁ、女子のオッパイを揉んだんだけど、どうやらそれが地雷だったらしくて、僕はその子から逃げてるんだよ。変な話だろう?」
「オッパイ揉んで怒られるのは、当たり前じゃないの」
「そんな馬鹿な! じゃあお前はオッパイを揉まれたからって相手を社会的に殺すのか!」
「まぁ、修復不可能なくらいにぶっ壊すわよ」

 なんということだ……狂っている!
 世界が崩れ落ちていくかのようだった。

「そんな……そんな法律は……ルールは、おかしいだろ」
「うぅん、いや、それって、法律とか、ルールとか、それ以前の問題じゃない?」
「……はぁ?」
「なんつーかさー、ルールとモラルを履き違えてるっていうの? ごちゃまぜにしてるっていうかさ。女の子のオッパイを揉むなんて、ルールとかじゃあなくって、それ以前に、それ以上に、ただ単純に、女の子に失礼だよ。だってお兄ちゃんもいきなりチンチン鷲掴みにされたら嫌でしょ?」
「それがご褒美かはともかく、鷲掴みにされたら痛いよな」
「でしょ? そんなこと、ルールを作らなくったって、分かることじゃない。人を殺してはいけません、なんて法律で決まってなくっても、そんなことダメだって分かるじゃない。そんなルール、私が壊したところで、みんな守るに決まってるじゃない」

 この国の住人は古来から、何もせずとも列を作ろうとする習慣があったらしい。
 そんなルールはなくても、そんな法律はなくても、彼らは順番に、綺麗な列を作り、従順に、誰に言われるまでも無く、自ら、率先して、列を作って並んだという。
 
「お兄ちゃんに足りないのは、ずばり、デリカシーだよ!」
「ガビーン!」

 思わず漫画みたいな擬音を口に出してしまった。
 なんということだ、僕にはデリカシーが不足していたのか……。

「だから私はお兄ちゃんの能力をぶっ壊したんだよ。お兄ちゃんが節操無く人の心を読みまくったりするから、気持ち悪かったんでぶっ壊させて頂きました」
「そういうことだったの!?」

 衝撃の事実だった。
 というか妹に気持ち悪いと思われていたってところが一番ショックだった。

「く……妹よ、僕のデリカシーを補うためには、どうしたらいいんだ」
「そんなの知らないわよ……。うぅん、でもそうね、デリカシーを補わなくっても、丸く収める方法があるんじゃない?」
「本当かよ」
「友達の女子のオッパイを揉んだってのが問題でしょ? だからそれを壊す。その関係を壊して再構築する」

 妹はカラカラと笑って言う。

「恋人の女子のオッパイなら揉んでも良いんじゃない?」

彼女のローカルルール 第十五条 対策

「法律に触れれば裁きを受ける。これが世界のルール、そして夢穂ちゃんのルールなのよねぇ」

 と、時雨先輩は静止した空間で夢穂さんの身体に手を伸ばす。
 女同士なら良いのか、この時雨先輩が作りだした空間だから良いのか、時雨先輩は夢穂さんのオッパイを揉みし抱いた。

「さぁさぁ青君、早く逃げないと大変なことになるわよ?」
「大変なことって……どういうことですか」
「そりゃあもちろん、夢穂ちゃんに殺されちゃうのよ」

 時雨先輩は当然のようにそう言った。

「いや、どうしてオッパイを触ったくらいで殺されなきゃいけないんですか」
「青君、女の子の身体に触るってのは、ものすごぉく大変な罪なのよ? 大罪なのよ? だって昔からこの国はずっとそうだったんだから。女の子の身体に触れば罰せられる。社会で生きていけなくなる。つまり、社会的に殺されるってことよ?」

 なんということだ。
 僕はどうやらとんでもないことをしでかしてしまったらしい。
 ……そうだ、確か聞いたことがある。
 その昔、この国では日常的に、毎日のように、恒例行事のごとく社会的に殺されてしまった男性が大勢存在したという。
 軽はずみにオッパイを揉んでしまったことで……!
 僕の社会的生命は今、終焉を迎えようとしているのだ……!

「…………」

 僕が社会的に殺されてしまう、というのは、まぁべつにかまわない。
 ここで問題となるのは、社会的に殺される、ということはつまり、家族にも迷惑がかかるというところなのだ。
 僕の妹。
『瓦礫の積み木(クラッキングクラッカー)』。
 僕が社会的に殺されることで、性犯罪者の妹だというレッテルを貼られ、その後ずっと馬鹿にされ続けることだろう。
 いや、妹にしてみれば、それは痛くも痒くも無いだろう。
 壊れてしまった妹は、それに対して何も感じないだろう。
 だがしかし、僕はそうじゃあない。
 僕が、僕自身がどうなろうが構わないが、僕の妹が馬鹿にされることは許せない。
 僕がオッパイを揉んだことで妹が蔑まれるなど、あってはならないのだ。

「時雨先輩、僕はどうしたらいいんでしょうか」
「んん~? そりゃあ決まってるじゃない」

 時雨先輩は僕の後方を指差して言う。

「私が時間を作ってあげるから、逃げなさいな」

 と、時雨先輩は古典的ではあるがおそらく最も有効な手口を提案した。

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